楽しいはずの会話の最中に、ふと嫌な臭いが漂ったとしたらどうでしょう。
その原因が相手の口にあるとしたら、それに気づいたほうも、気づかれたと思ったほうも、なんとなく具合が悪くなってしまうものです。
会話は早々に打ち切られてしまうことは想像に難くなく、よくそうした後日談も耳にします。
現代ではそれほど口臭は人と人との関係、コミュニケーションにとって大きな影響を及ぼしていると言えます。
1994年4月に18〜25歳の男女、288人を対象としてカネボウが行った調査によると、「好きな香りベスト3」として石鹸(64.5%)、花(53.8%)、焼き立てのパン(30.9%)をあげています。
「嫌いな香りワースト3」は口臭(60.1%)、生ごみ(58.3%)、体臭(38.2%)となりました。
また、ある調査によると、20代女性の「結婚したくない相手」ナンバー1は「口臭のある人」だったとも言います。
口臭は、人間関係に大きな影響を及ぼしかねないものだけに、日常の家庭、学校、職場での会話の際、相手から言葉での口臭の指摘は、当人にとって深くて強烈な心の外傷ともなります。
また、言葉でなくても、態度や物腰、動作であたかも口臭を忌避するような振る舞いを受けると、当人にとって、言葉以上に無言の精神的な外傷を受けやすいと言えます。
特に性格的に孤高、プライドの高い人ほど精神的な外傷を受けやすく、「キレイない人ほど口臭に悩む」という実態は、多数の患者さんの対応に毎日追われている私にとって真偽りのない実感です。
そして、口臭をめぐる悲劇も非常に多くなっています。
口や身体の臭いが原因の「いじめ」が上位にランクされているという記事が、新聞に載っていましたが、実際、口臭を気にするあまり、自殺したり登校拒否に陥るケースもあります。
口臭は臭いの程度が自分でわかりにくいので、友達に二度三度と指摘されると、幼心に非常に深刻な問題になるのです。そのダメージたるや、他人には計り知れない苦悩となります。
かつて16歳の高校生が、クラスメートから「おまえの口は臭い。あっちへ行け!」となじられ、感電自殺したという他変ショッキングで痛ましい事件もありました。